微笑ましいシルエットと、ペットのように手元に置いておきたくなるほどの小さなミニマムボディ…
そして、パタパタとのどかな2気筒のエンジン音を奏でながら走り去る後ろ姿…
1957年にデビューし、イタリアの庶民の足として活躍したフィアット500(チンクエチェント)は今もなお世界中で愛され続けている。ここ日本でも「ルパン三世の黄色い車」として有名かつファンが多くて、現代版の新型500のヒットをも支えて潜在的な人気の高さを示した。
老若男女、誰が見ても心を和ませずにはいられない、そんなチンクエチェントならではの癒やし系なキャラクターによるものかもしれない。
このレトロでヴィンテージ感あふれるFIAT500が、先代モデルの通称『トポリーノ Topolino』から500の名前を受け継いで、ヌオーバ(NUOVA=新しい)を冠したNuova500として初登場したのは、先述の通り1957年。その春のこと。
同年のジュネーブモーターショーで発表されたのが最初に披露された瞬間だった。数年前の1955年に、先に国民車的な意味合いを託されて夜に出た600(セイチェント)を更に小さくして、戦後復興で立ち直りつつあった当時のイタリア社会を支える経済的なミニマム・トランスポーターとして誕生したまさに新しいオートモービレ像の礎。
一般庶民の誰しもが自家用車を所有できる時代の到来を予感させるものだった。
フィアット500の魅力はといえば、そのキュートなスタイリング。
はじめて目のあたりにした人の第一声は「可愛い!」が体感的にはほぼ100%だと思う。そのくらいこのクルマは可愛い。
もちろん旧チンクの魅力はそれだけではなく、まず運転席に座って感じるのはその構造のシンプルさ。今どきのクルマはもちろん、同年代の他のクルマと比較してもかなり簡素なインテリアながら、ある意味では洗練されて無駄なものが一切ない。
機能美という言葉があるけれど、生みの親であるダンテ・ジャコーザが設計に苦心した末に成るべくした成ったカタチが、結果的にデザインとしても完成の域に到達したという最高の事例の一つ。外見ありきで可愛らしい見た目に作ろうとしたわけではない(当時にそんな余裕も予算もない)。そういうところが昔のモノ造りの凄さでもあると思う。
それまでの主流であった貴族や資産家のための自動車ではなく、一般市民でも買い求められる低価格なアシクルマを実現させるため、徹底的なコストカットの末に車体も小さくなった。
それでも、大家族の多いイタリア家庭のマイカーで二人乗りなんて有り得なかったわけで、4人ないし5人が乗れる空間をあの小さいボディに確保するという偉業が成し遂げられたのだけど、さすがにラゲッジスペースは皆無。2人なら後部シートに荷物を置けばよいのだけれど、フル乗車したら足元にハンドバッグすら置けない。
一応フロントボンネットにわずかなスペースはあるものの(RR車なのでエンジンは後にある)、スペアタイヤが鎮座しているし、ガソリンタンクと隣接するから荷物に匂いが付いてしまうし、そもそも可燃性のものは危ない。
そこで、昔ながらのトランクを背負ったビジュアルが脳裏をよぎるのだ。
こういった、旧フィアット500のエンジンフードに取り付けることができるリアキャリア(ラゲッジラック)というものがある。専用トランクもあったりと、現代でも様々なアイテムが作られていてネット通販でも入手可能となっている。
有名所だとガレージリトルさんのネットショップの商品↓
このキャメルの革製トランク・バッグはメイド・イン・イタリーだそうな。ひじょうに興味深いし、ハッキリ言って欲しくて堪らないのだけれど(笑)
古い昔のトランクとか旅行カバンとか、ヴィンテージ物やアンティーク品を骨董市や蚤の市で見つけて背負わせるのも楽しいと思う。ヤフオクとかでも戦前のボロボロだけど頑丈そうなトランクとかけっこう出物はあったりする。
リアキャリアとかルーフキャリアは、さすがに当時物が出てくるケースは少ないけれど旧車用なら少しイジれば流用できることもあるだろうし、先ほど紹介したように専用品を新しく作ってくれてるショップさんもあるから入手自体は難しくはない。少し値段は張るとしても、一生モノと思えば高すぎる買い物ではないかな?
旧チンクエチェントと付き合うコツというか楽しみ方は、のんびり気長に仕上げていくことだと思う。たしかにお金を掛ければいくらでも、あっという間に自分の理想形につくり込むことはできるのだろうけど、旧車・クラシックカーには年月を費やすという面白みもあるのだからモッタイナイかもだよね。
チンクエチェントは、ときに英国のMINIやドイツ・フォルクスワーゲンのビートルと並べて語られる、自動車史に残る名車であり、広く一般市民に愛された国民車。
スタイリングの可愛さとかキャラクターとしては似ているかもしれないけれど、それらと比べると安っぽくて貧弱ですらあるとは思う。でも、ちょいちょいトラブルは起こるものの、少しセッティングを調整したり部品を換えればちゃんと直るし、メカ初心者でも勉強しながら基礎メンテナンスくらいは出来るようにはなる。
そんなシンプル構造なマシンは、本当に1/1原寸大のブリキのオモチャみたいで男の子の心をくすぐるし、本当に唯一無二な魅力を持つオリジナリティ溢れるクルマだと思う。チンクエチェントの魅力を語り始めるとエピソードは尽きないのだけれど、今回の記事はこのあたりで。